の呟きが調子を合してきた。殊にいけないことには、俺もどうやら神棚の前に坐ってみたい心地になりそうだった。俺はじりじりしてきた。辛棒すればするほど、心が険悪な方へ傾いていった。
「おい、もう止せよ」と俺は堪《たま》らなくなって云った。
彼女は返辞もしなかった。びくともしないで尻を落付けていた。
「止せったら……止さねえか!」
俺はいつにない手酷しい調子を浴せかけてやった。じっとしてると、息がつまりそうで額が汗ばんできた。然し彼女はいつまでも止そうとしなかった。俺は立上っていって、その肩を突っついてやった。
「今晩だけは止してくれ。もういいじゃねえか。」
彼女はぴたりと祈りの文句を途切らしたが、暫くすると、涙声で云い出した。
「いいえ止さないよ。今晩は本気で祈ってるんだから……。今迄いつも気紛れにやってたのが、空恐ろしくなってきた。……お前さんそう思わないの? やっぱり神様が守ってくれたからだよ。よく罰が当らなかったもんだ! 今晩こそ、心から……本気で……祈ってやる、夜明けまで祈ってやる!……お前さんもお祈りよ。」
彼女はまた訳の分らないことを唱えだした。梃でも動かないほどどっしり
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