と尻を据えて、組み合せた両手を打震わせながら、腹の底から祈りをしているのだった。俺はその後ろに釘付になって、じっと神棚の灯明を眺めやった。眼の中が熱くなってきて、額からじりじり脂汗が流れそうな気持だった。
「止せよ!」と俺は大声に怒鳴りつけてやった。
 然し彼女はびくともしなかった。
「止さなきゃ、神棚を叩き壊してやるぞ!」
 俺の方ももう夢中だった。眼の中に一杯涙が出てきた。そのためになお感情が激してきた。二足三足神棚に近寄った。
「天《あま》照る神も、ひるめの神も、何もかもあるものか。止せったら!……ぶっ壊しちまうぞ!」
 彼女が泰然としてるのを見ると、僕は[#「僕は」はママ]もう我慢出来なかった。いきなり神棚に手をかけた。一寸触るつもりだったのに、案外力がはいって、棚がめりめりといった。榊の花立がひっくり返って、水がさっと頭にかかってきた。もうどうにも踏み止まれなかった。俺は歯をくいしばり眼から涙をこぼしながら、ひきつった両手で棚の上の箱に掴みかかって、それをあらん限りの力で傍の壁の柱へ投げつけてやった。
「あッ!」とお久が叫ぶと同時に、異様な物音がした。もうっと埃の舞い立つ中に
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