とられた。
「何を云っ……。」しまいまで云いきれなかった。
「いくら白ばくれたって、私にはちゃんと分ってるよ。さあ白状しておしまい! お前さんは、池部と谷山に殴られたんだろうが。」
 そこまで聞くと、俺にも漸く分ってきた。俺は苦笑《にがわら》いしながら、反対に尋ねかけてやった。
「お前は池部に何か云ったんだろう?」
「云ったともさ。私お前さんをそんな男だとは知らなかった! 私立派に云ってやったよ、うちの人は笹木に内通するような男じゃないって。……ほんとに私の顔にまで泥をぬってさ、どうしてくれるつもりだよ。」
「まあ待てよ、早合点しちゃいけねえ。」と云いながら俺は其処に坐り込んだ「明日の晩になりゃあ、何もかも分らあね。池部と谷山とが一緒に来ることになってるんだ。谷山は金を工面してきてくれる筈だぜ。」
「え、じゃあどうしたんだよ、一体……。」
 真剣に引き緊ってた彼女の顔が、ぽかんと眼と口とを打開いてくる様は、一寸滑稽だった。俺は笑いながら、大体のことを話してやった。そして池部と谷山とに別れた所まで話すと、彼女は咽び上げて泣き出した。
「泣く奴があるか、馬鹿な!」
 と云ったが、俺も一寸ど
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