うなら、こちらから切り出してやれという気になった。
「君、笹木の話はどうなったんだ?」
「いや……また明日相談しようよ。」
 その逃げ言葉を俺は追いつめてやった。彼は暫く黙り込んで、それから谷山と眼で相図した上で、初めて話しだした。
 ――その日の朝、池部は笹木の所へ寄ってみた。一寸出かけてるとのことだった。それでまた晩に行ってみた。すると小僧が出て来た。笹木は関西の方へ旅に出ていて、正月も松が過ぎてでなければ帰らないとの答えだった。池部は細君に逢いたがった。然し細君も今日は不在だと小僧は答えた。池部は変な気持で帰ってきたが、どう考えても腑に落ちなかった。其処へ谷山が来合せた。二人でいろいろ考え合せてみると、誰か笹木へ内通した者が居るに違いなかった。それで笹木は留守をつかってるに違いなかった。二人は忌々しくなって腹を立てた。もう引っ叩いてでもやらなければ、その腹の虫の納りがつかなかった。然し大勢ではまた手違いを起すかも知れないので、二人でやっつけることにした、而もその晩に……。
「じゃあ何で俺の家へ寄ったんだ?」と俺は尋ねてみた。
「一寸通りがかりに……。」と池部は言葉尻を濁した。
 
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