時突然に谷山が、本当に困るならどうにかしてやろうと云い出した。沢山は出来ないが四五十のことなら何とかなるかも知れないと……。俺は一寸びくりとした。驚きとも感謝ともつかない、電気にでも触れたような気持だった。それを俺は強いて押えつけて云った。
「大丈夫かね、こう押しつまってるのに……。」
「変梃な云い方をするなよ。まあ明日《あした》まで待て、何とかしてみるから。……そんなに切羽詰ってるんなら、早く俺に相談してくれるとよかったんだ。」
「だが、君はいつもぴいぴいじゃねえか。」
「ぴいぴいだから、またどっかに抜け途もあるってことさ。……大丈夫俺が引受けてやらあ。」
「本当か。……じゃあ頼むぜ。」
 そして俺は、自分の気弱さを自分で叱りながらも、涙ぐんでしまった。それをてれ隠しにする気味もあって、しきりに酒をあおった。
「もう行こうじゃねえか。」と池部はふいに云い出した。「君早く帰ってやるがいいぜ、しきりに待ってたから。」
 俺は先程からの池部の様子で、彼が何か腹に一物あることを気付ていた。それが今の言葉で愈々はっきりしてきた。考えてみれば、笹木のことを一言も云わないのが不思議だった。向うでそ
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