いで、袂からキューピスさんを二つ取出して、子供達の前に投げ出してやった。子供達は嬉し声を立ててそれを拾い取った。
「まだあるぞ。」
そして俺はまた二つ投り出してやった。
「やあ、おかしな顔をしてる!」
珍らしそうにキューピスさんを弄《いじ》くってる子供達の心より、それを見てる俺の心の方が一層喜んでいた。俺はにこにこ笑いながら、バットに火をつけて吸った。
「じゃあ。出来て……。」
お久は何と感違いしたか、もう顔の相恰をくずしかけていた。がそれも無理はなかった。俺が玩具なんかを買って来ることは滅多になかったのだから。――とは云え、折角萌しかけてきた一家の喜びに、どうきりをつけたらいいものか、俺は少なからず困った。
「出来たんでしょう……私祈ってたから……。」
その最後の言葉がなかったら、俺も何とかして、彼女の希望をもっと長引かしてやったかも知れないが、こうなると、もう待っていられなくなった。
「所が生憎……。」
「え!」
「一文も出来ねえよ。」
見る見るうちに、彼女の顔は変な風に硬ばって、眼の光がぎらぎらしてきた。それが激しい怨み小言の、或は嘆き訴えの、前兆であることを俺は知って
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