長い間それを極めていた。――そうだ、俺にだって今にサンタクロースの爺さんが、素敵な幸福を持って来てくれないとは限らない! その縁起をかつぐわけではないけれど、一寸自分に自分で口実を拵えるためもあって、子供にキューピスさんの人形でも買って家に帰ろうと思った。
雨はもうぱらぱらと、俯向いてても分るくらいに降ってきた。俺は少し急ぎ出した。或る玩具屋の店先で、乏しい蟇口の底をはたいて、五銭もするセルロイドのキューピスさんを四つ買った。毎度[#「毎度」に傍点]ありがとうございますって、人を馬鹿にした空世辞も、満更嬉しくないでもなかった。
電車に飛び乗って、暫くして降りて、曲りくねった小路をつきぬけて、自分の家の門口に立った。耳を澄したがひっそりしている。はてな? と思う心に用捨なく雨が降りかかってくる。俺は思い切って、勢よく格子を開けて中にはいった。
お久が二人の子供を相手にぼんやりしていた。見ると、神棚には明々と蝋燭がともされていた。また例のことが初ったなと思いながら、俺の顔には一人でに苦笑が上ってきた。
「どうだったの?」とお久は上目使いに俺を見上げて尋ねかけた。
俺はそれには答えな
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