かなのか。」
「確かだともさ。」
彼女は平然とそう云いきってるが、俺にはまだはっきり信ぜられなかった。二月《ふたつき》見る物を見ないというのも、母の病気や死亡の感動のせいかも知れないし、悪阻《つわり》だってないんだし……と俺は思ったが、悪阻がないことだってある、と彼女は云っていた。そう云えばそうかも知れない、もう出来てもいい時だから……。
「兎に角繁昌だね。」
「何が繁昌だよ、馬鹿馬鹿しい!」
彼女はそう云い捨てて、一寸何か考えてる風だったが、変にくしゃくしゃな渋め顔をして、神棚にまた蝋燭をつけた。そして此度は何と云っても返辞一つしないで、じっと坐っていた。俺は「繁昌」で少し気を取り直していたが、彼女の黙りこくった執拗さにぶつかって、次第に気が滅入ってきた。「仕方がねえから死んじまおう、」と云ったら、すぐにも承知しそうな彼女の姿だった。ここで踏ん張らなければいけない……と思ったために、益々心が切羽詰った所へ落込んでいって、世界が薄暗くなってきた。で俺はお久をそのままに放っといて、子供達を見に行く振で、次の室にはいっていった。子供達は煎餅布団の中に、ぬくぬくと眠っていた。俺は横の布団
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