の午後にしたいと池部は主張した。俺は賛成だった。それではこれからまだ廻ってみよう、池部は慌しく立上った。十五人ばかりのうち十人くらいは大丈夫集る、と自信ありげに云い捨てて帰っていった。
 所が、池部が居なくなると、俺は何だか力抜けがしたような気持を覚えた。痩せてはいるが変に骨の堅そうな彼の身体つきが、どうしてそれほど俺に影響してくるのか、さっぱり合点がいかなかった。話が余り突然で心になずまないせいもあったろうが、それにしても、彼一人がその話を背負って歩いてるわけでもあるまいし、張りのない自分の心が不思議だった。
「ほんとに酷い奴だね。」とお久はまだ興奮を失わないで云っていた。「あんな奴は、引っ叩くくらいじゃ屁とも思やしないから、金をそっくりふんだくってやるがいいよ。」
 俺は[#「 俺は」は底本では「俺は」]苦笑した。
「そうもいかねえさ。……お前だって何だろう。先程、池部が投り出した金を取りもしねえで、わざわざ取って置きの酒を出したじゃねえか。」
「あれとそれとは違うよ。……ほんとに笹木から金を吐き出さしてしまったがいいよ。そうすれば私達だって助かるじゃないか。でもねえ、笹木の方は当
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