だ。あの事件の最後の相談をするということにして、笹木を呼び出しておいて、皆で取っちめてやるのさ、もし白《しら》を切るようだったら、何時から何処にどれだけの貯金があった、誰からいくら引出した、というようなことを調べ上げてやるまでのことだ。ごまかせるものじゃねえよ。そこで皆《みんな》して、彼奴が松尾から手に入れた金を捲き上げてやるか、彼奴をひっ叩《ぱた》いてやるか、まあどっちかだね。万一松尾と共謀《ぐる》でなかったとしたら、男らしく謝罪《あやま》ってさ、打揃って彼奴の印刷所へはいって、一つ立派なものに育てあげようじゃねえか。そうなりゃあ、資本を下してくれる者だって見付かるかも知れねえし……。」
そこまでゆくと、俺も面白くなってきた。池部は俺が乗気なのを見て、また五十銭銀貨を取出して、酒の継ぎ足しをお久に頼んだ。そして皆でなお詳しく相談し合った。お久は金を捲き上げることに最も賛成だったし、池部はひっ叩くことに最も気が向いていたし、俺は立派な印刷所を育て上げることに最も望みをかけた。然し三つの解決なら、結局どっちになっても面白そうだった。ただ、こんなことは正月まで持ち越したくないから、三十日
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