るだけで、我ながら可笑しな心地だった。で俺は自分に対する皮肉な微笑を浮べながら、池部に尋ねかけていった。
「だが、そりゃただらしい[#「らしい」に傍点]というだけで、まだ確かな証拠が挙ってやしないじゃねえか。」
「挙ってるとも。素寒貧な笹木に降って湧いたように金が出来るというなあ、何より立派な証拠なんだ。内々調べてみるてえと、彼奴に前から金があったしるしも、誰からか金を引出したらしいしるしも、全くねえんだ。」
「じゃあどうしようというんだ?」
「君だったらどうする?」
池部はあべこべに尋ねかけて、俺の方へじりじりと顔を寄せてきた。もうちゃんと肚をきめていて、俺をその中に引張り込もうとしてるな、ということはよく分ったが、どうせ碌なことじゃあるまいと思って、俺はその押してくる力を平然と堪《こら》えてやった。
「警察に訴えたらどう?」と子供達を寝かしつけてきたお久が、聞きかじりの余計な口を出した。
「なあに訴えた所で、彼奴が尻尾《しっぽ》を出すもんですか。」と池部は空嘯いたが、此度は俺の方へ向いて云い出した。「実は四五人で相談をまとめたんだが、君も一つ賛成してくれないか。こうしようというん
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