にはならないし、家で入用なだけは何とか工面しておくれよ。子供達の着物と正月の仕度とだけは、なくちゃ年が越せないからね。一日二日のうちに、お前さん大丈夫かい。ほんとに悪い時にぶっつかったもんだね。笹木の方はいい加減にして、実際の所、当にはならないからね、家のことだけを一番に考えておくれよ。」
笹木の方は当にならないと云いながら、実は当にしてるんだな、と俺は思った。いつも俺のことを、他愛もない夢ばかりみてると貶しつけておきながら、自分の方では、まだ形態《えたい》も知れない笹木の話に、溺れる者が藁屑をでも掴むように、すぐに希望を投げかけていってるじゃないか……。俺は馬鹿々々しくなって、其処にごろりと寝転んでやった。
「ほんとにお前さん頼むよ。いくら押しつまったって、男の手で百や二百の金が出来ないことがあるもんかね。出来なくっても、私が出来るように祈ってやるよ。祈って祈って祈りぬいてやるよ。命がけで祈ってやるから覚えておいで、……ああ大変、お灯明が消えてる……。」
彼女はまた例の無茶苦茶になりかけていた。いきなり立上って、神棚に蝋燭をつけて、その前に蹲った「天《あま》照る神ひるめの神……」
前へ
次へ
全46ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング