てくるんだ。第一笹木が何処からそんな金を手に入れたかが疑問なんだ。彼奴が金なんか持ってたためしはなかったんだからね。なるほど仕事の腕は持ってるが、いつも酒ばかり喰ってたじゃねえか。それに彼奴が僕達を松尾の方へ引張り出した張本人だろう。それにあの時のしゃあしゃあとした態度はどうだ! 誰にだって大体の想像はつかあね。俺は浅井と一緒に手を廻して、内々調べてみたよ。すると確かに、彼奴は松尾と共謀《ぐる》だったらしいんだ。」
不思議にも、俺はそういう話を聞きながら、前に一度自分でも笹木の共謀を想像したことがあったような気がした。或はまた、自分の知ってることを、池部から改めて聞かされてるような気がした。そして俺は別段驚かなかった。一体この事件くらい馬鹿げたものはなかった。事の起りは八月の頃で笹木が俺達の仲間十五人ばかりを松尾に引合わしたのである。松尾は或る富豪から全権を任されたとかで、新らしく印刷所を拵えにかかっていた。給金制度でなしに、純益配分制度とかの、理想的な会社になる筈だった。そして俺達はうまく勧誘されて、その会社にはいることを約束した。勿論その間にはいろんな交渉もあったが、十月の半ばに
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