「どんな話だい?」
「どんなって、いろいろあるがね、初めの起りは、浅井が笹木の所へ金を借りに行ったことからなんだ。笹木が或る小さな印刷所を――端物《はもの》専門のちっぽけなものだが――その株を買って一人で経営してるっていうのを聞き込んで、ついのこのこ出かけていったものさ。行ってみると、手刷の器械が一二台あるだけで、まるで商売にもならないくらいなものなんだが、云うことが大きいや、ゆくゆくは大規模な印刷会社に仕上げてみせる、そうなったら、君も俺の所で働いてくれってさ。馬鹿にするないって気に浅井はなったそうだが、ちょいちょい言葉尻を考え合せてみると、どうしてなかなか、まんざらの法螺だとも聞き流せねえふしがあるんだ。……がまあそれはそれとして、浅井は少し借りてえときり出したのさ。すると奴《やっこ》さん、澄しこんだ顔付でね、大事な商売の金なんだが、まあ月に七八分も利子を出すんなら、五十円くらい融通してやってもいい、なんかって吐《ぬか》しやがるのさ。馬鹿にしてるじゃねえか。……浅井の奴、ぷりぷり怒りやがって、俺にその話をしてきかせたよ。そして二人で話し合ってるうちに、どうも腑に落ちねえことばかり出
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