考えられるとすれば、「童話」の方を取るべき時代ではないか。
 いろいろなことが言われている。――思考と行為との分離がある。自我の分裂がある。自意識の過剰がある。信念の崩壊がある。目標の喪失がある。経済の優位がある。夢想の消滅がある。現実の重圧がある。徒労なる彷徨がある。幻滅から来る頽廃がある。復古と偶像破壊との矛盾がある。伝統の断層がある。廃墟と曠野とがある。再建と革新との喰違いがある。其他、数えたてればきりがない。
 こういう時に当って、明朗な眼と新鮮な動きとの合致を必要とする童話の世界が、夢想されるのである。この夢想、単なるロマンチックな憧憬ではなく、新時代の童話そのものに於けると同様、科学的な現実的な夢でなければならない。非常時と平常時とが融合しなければならない如く、現実と夢とが融合しなければならない。それ故また逆に、知性と行動との融合する童話の世界が希望されるのである。――たとい現実にはそれが困難であろうと、文学の上に於てはかかる冒険も可能であろう。新時代の文学の途はそこに開ける。



底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
   1967(昭和42)年1
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