してるようだった。私はただ母のロボットに過ぎない気持ちがした。
夫、というのもへんだから、姓を呼ぶが、吉川は、文学などには趣味はなく、私の翻訳にも無関心のようだった。然し、次第に、無関心が軽蔑に変ってきた。夜分まで私が机に向ってることがあるのを、嫌がったのであろう。
「家庭の主婦が、原稿など書こうとしても、どうせ中途半端になる、にきまってるよ。お母さんも、それを経験した筈だがな。愚痴をこぼしていたことがある。昔は小説なんか読み耽っていることもあったが其後さっぱりやめてしまった。まあまあ、お母さんの気紛れなんかいい加減に聞き流しておく方がいいよ。そんなことより、主婦の仕事はたくさんある筈だし、裁縫なんかも教わって、お母さんの手助けをするようにしては、どうですか。」
この、どうですか、という言葉が私の胸にぐっと響いた。吉川は西洋流というのか、不機嫌なことは丁寧なよそよそしい調子で言う癖がある。
もとより、吉川の説には私も賛成なのである。専門家にならない限り、婦人にとって、文学は情操を養うのを主眼とすると、女子大の英文科の先生も説かれていたし、私も女学校で、生徒達にそう説いた。家庭の主
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