に成立していた。この権力を打倒しなければ、人は自立することが出来ないのだ。而も現代社会に於ける人間の自立は、個人々々の人格的自覚の上にのみ在るものではなく、大衆の有機的一員としての自覚、社会の有機的一員としての自覚、そういうものの上にも在らねばならない。言い換えれば、自己と社会とを含む自治精神によっての自立なのである。この自治精神は、あらゆる種類の強権主義に反撥するが、然し単に政治的にのみ理解されるものではなく、人間の生き方として理解されなければならない。
 それからまた、日本人は世界のあらゆる文物を急速に取り入れながら、自己の殼を脱ぎ捨てることを怠っていた。その最も顕著な現われとしては、国内に於いては、他国の人々に対していつも微笑を示しながらも、自分のまわりに屏風を立て廻し、胸襟を開いて交際することが出来なかったし、国外に於いては、その風土になじむことをせず、いつも自分等だけの特殊部落を拵えた。そういう殼を、日本人は脱ぎ捨てなければならないのだ。一つの民族たることがまた人類たることへ通ずる精神、即ち世界精神こそ、日本が現在あろうとする平和国家の人間には、不可欠の条件である。かかる世界
前へ 次へ
全14ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング