掻きがとれないと、看做されている。そしてそのことは、外部に対する防壁とはならず、却って、防壁の薄弱を意味する。斯かる極東の地域は、国際外交の契約によって、軍事的な或は政治経済的な取極めによって、一時の安寧は保てようが、もしも事あって押し寄せてくる世界の波瀾に対しては、甚だ微力であるとしなければなるまい。
 とは言え、人は不安の中にも生きる、動揺の中にも生きる、苦難の中にも生きる。生きなければならないのだ。そういう生き方は、安泰の中に生きるよりも強烈だ。外に確固たる地盤がなくとも、内に信頼すべき支柱が拵えられる。斯くなれば、もう精神の問題である。人間の問題である。そして現代のヒューマニズムは、もはや、人間の復活でもなく、人権の回復でもない。それは新たな人間の生誕、新たな人生観の確立である。
 日本人は今、陣痛の苦悶をなめつつある。脱皮して新たな自己を産み出す陣痛なのだ。この陣痛を通りぬけて初めて、自立することが出来るであろう。
 これまで日本人は、上下に貫く強力な組織の中に縛りつけられていた。封建主義、階級意識、官尊民卑思想、其他いろいろな言葉で表現されるこの上下の組織は、つまり権力の上
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