ないのである。然しやがて中国は、日本の言葉の調子が以前と違っているのに気付くだろう。真意不明の口先だけのものではなくて、なにか率直な響きが中に籠ってるのである。率直なばかりでなく、苦悩と自信との色合さえも見えるのである。そして日本は時々、自分の真意を表白すべき新らしい言葉を探しながら、吃ったり呟いたり、急に大声で叫んだりするだろう。そこで中国は気を許して笑うだろう。
 日本は初め、極りわるげに眼を伏せるだろう。中国がもう立腹していないし、報復の念を少しも持ってはいないと、よく知っていながら、なにか拗ねてみせるだろう。それから眼を挙げて、中国の様子が変っているのに気付くだろう。中国はやはりでっぷりと肥って逞ましいが、なんだか急に年老いたようだし、淋しそうだし、苛ら苛らしているようである。そのことが、日本にとっては悲しくてつらいのだ。そこで日本は饒舌りだすだろう。思ってることがうまく言えないので、吃ったり呟いたり叫んだりするだろう。それがおかしくて、中国は笑うだろう。日本もそれにつられて初めて笑うだろう。
 こういう情景は、恐らく、中国と日本との外交関係の中には展開されないだろう。私は外交
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