や農村や漁村など、つまり大部分は、さし当っての暴風の圏外にある。屋台骨はびくともしないのだ。然し、それも長い間にはひびがはいらないとは限らない。また、中国は対外戦に勝ちながら、対内的には武器を収めかねている。国府軍と中共軍とは実に悠長に戦線を波動させている。而もこの悠長な動きの中に、やがて、莫大なエネルギーが蓄積されるかも知れない。ドイツからギリシャからインドを経てシナに至る半月形の曲線は、世界的大地震を起す懸念のある断層なのだ。この断層の最も幅広いそして奥深い底部に、丁度中国は当る。
戦争に勝って一息ついた、その一息が、実は休憩や安堵のそれでなかったことを、心ある人々は知っている。中国自身が感じている。前途の見通しは暗い。何か特別な光明が必要なのだ。その光明も、空が晴れて太陽の光りがさしてくるような工合のものではない。自力で作り出さねばならないものなのだ。
そういう状態で、中国と日本とは対面する。顔を見合せてみれば、古くからの隣り同士の仲だ。
中国はちょっと嶮しい眼付をして見せるだろう。そして慇懃な身振りをするだろう。乱暴で腕白だった日本に対して、一種の警戒心を捨てることが出来
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