までも独身でいるのがいけないというのなら、猶更おかしなことでしょう。それにまた、木村さんとしては、過去に失恋されたこともありますし、三十三まで独身でいられても不思議ではありません。また、三十三で独身でいても、ちっとも男臭くなるような人ではありませんから、香水なんかも、他意あって使っていらるるのではないんでしょう。木村さんて、そういう人なんです。何となく弱々しい、夢の多い、感情のデリケートな方でした。そして子供が嫌いでした。子供を相手にしていると、神経を不自然に使わせられる、と仰言っていました。そして、あたりの別荘には大抵子供連れの人たちばかりでしたし、御自分は一人で旅館に泊っていられたものですから、退屈なさると、よく私達のところへ遊びに来られました。
 私は知らず識らず、野口と木村さんとを比較して考えることもありました。そして心易い気持から、野口の側で感ずる気詰りなことどもを打明けることもありました。「それは、あなたが、御主人の仕事をよく理解していられないからではありませんでしょうか。」と木村さんは云いました。おう、男の人って、どうしてこう、仕事仕事……と、そればかりを大事にするんでし
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