仕方によってはなおることもありましょうし、野口もそのつもりで、親切にいたわってくれます。朝の御飯がおいしく食べられるようになれば、もう病気はなおったも同様だ、とそう申しては、私の朝御飯に注意してくれます。けれども私は、いつからとなく、自分のことよりも、野口のことが目について仕方なくなりました。野口は、朝から何か生臭《なまぐさ》いものを食べるのが好きです。沓掛に来ましては、魚類が不便なので、牛肉の罐詰や佃煮や、時にはすぐ側の旅館にたのんで鯉こくなどを、朝から食べました。そして、脂のぎらぎら浮いてる味噌汁を、音を立ててすすったり、佃煮で茶漬にした御飯を、くしゃくしゃかんだりしますのを、そばで見ていますと、その匂いがむかむかと胸にきて、私はもう何にも食べる気がなくなります。いくら眼をそらしてもだめなんです。すると野口は、気の毒そうな眼付で私を眺めます。やはり、冷い、氷のような憐憫です。その奥に、恐ろしい野性……そんなものを私は感じてはいけなかったのでしょうか。
――「お前は、胃腸も悪いかも知れないが、それより、神経衰弱かも知れないよ。」と野口は申します。
まあなんと、安っぽく、片付けてし
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