いて御飯にかけてやりました。恰度鰹節が小さくなっていましたところ、野口はクロに食べさした後、いつまでも丹念にその鰹節をかき、中身のきれいなところだけにみがきあげておいて、それからその、歯も立たないような堅いのを、犬と戯れながらかじり始めました。奥歯や犬歯でがりがりかんだり、しゃぶったりして、如何にもおいしそうです。私は縁側にしゃがんで、遠い鈍痛のこもってるような胃部を押えて、彼の様子を眺めていましたが、彼は鰹節をしゃぶりながら、私の方を振向いて、微笑みかけ、それからふと、その微笑を消して、じっと私の顔を眺めました。その眼の中に、憐れみ……氷のように冷い憐憫を、私は読み取りました。
 ――「そんな、そんなばかなことがあるものか。気のせいだ。」と野口は申します。
 けれど、憐憫にも、氷のように冷いものがあることは事実です。とは云え、鰹節の話なんか全くつまらないことかも知れません。
 私は身長五尺五分、体重十二貫と少し、そして野口は、身長五尺五寸余、体重十六貫ばかり。この違いは、男と女にしてみれば、まあ仕方ないことかも知れませんし、私の胃腸の持病にしたところで、そう大したものではなく、養生の
前へ 次へ
全21ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング