査したりしました。そして、人影も殆んど見られない淋しい自然の中に、勇敢にはいりこんでゆく彼の姿は、なぜとはなしに、野性の獣という言葉を私に思い出させました。歩き疲れて帰って来ますと、その朗かな、何か混濁したものを払い落してきたような様子に……おう、私は見覚えがあるのです。
東京で、時折、野口が賤しい女に接することがあるらしいのを、私はいつしか感ずるようになっていました。私は病身なせいもあるかも知れませんが、そればかりでなく、野口はあの頑健な身体にも似ず、至って性的欲求に淡白なのを、私はよく知っております。それなのに、ごく稀にせよ、賤しい女に接するとは、どうしても私の腑に落ちませんでした。然しそれも、はっきりそうだと断定は出来ませんし、ただ一種の勘で感じるだけのことでした。それとなく探りをいれてみますと、野口は一言で否定してしまうか、または、たまには家庭外の飯を食うのも男にはよかろうなどと、冗談にしてしまいます。真実のことは掴めませんでしたが、それでも、そうした場合、何だか一種異様な匂いが私の胸にくるのでした。へんに快活で朗かで、そして私にはいつもよりやさしく、身内が軽々と澄んでるのに
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