かったのです。
 私の胸の中には、線香花火の火花みたいなもの、ぱっと光ってすぐに消える何かが、いつのまにかはぐくまれていました。それが光ってる瞬間には、私は浮々として、神経の発作にでも駆られてるようで、何を仕出来すか分らない気がしましたし、それが消えてしまうと、気分が沈みきって、深い憂欝に囚えられるのでした。私はなるべく賑かな処へ、木村さんを誘い出しました。グリーン・ホテルへ屡々行き、軽井沢の方へ幾度も出かけました。また、附近の別荘は、星野温泉を中心にして、一区劃をなしていましたので、音楽会、絵画展覧会、子供のための談話会、仮装余興会、そんなものが催されまして、私はつとめてそれに出てみました。野口は、そういう場所やそういう事柄を軽蔑してるらしく、何等の興味も示しませんでした。木村さんは、快活に面白がったり、打沈んで夢想に耽ったりしていましたが、そうした気持の晴曇が、私の心に触れてくることが多くなりました。
 野口は私たちを置きざりにして、よく一人で出かけることがありました。湯川の小さな溪谷を小瀬の方へさかのぼったり、浅間の麓の森林地帯を、あちこち探険したり、軽井沢への山越えの間道を、踏
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