ました。……不敵な……おう、それは、彼の側にいてさえも、私の心に孤独な感じを与えるものでした。
――「あんな場合には、誰だってそういう気持がするものだ。それをくよくよするのは、生活力の欠乏のせいだ。」と野口は申します。
だけど、そればかりでしょうかしら。野口は私をいたわってはくれますが、少しも庇ってくれようとはしないように、私には本能的に感じられるのです。六里ヶ原でもそうでした。夕立雲の暗澹たる影のうちに、火山灰の荒野のうちに、ぽつねんとしてる私の方へ、彼は泰然としてやって来ました。微笑して、犬か猫をでも見るような眼付をしていました。「もう遊び疲れたという恰好だね。」それに応じて木村さんが、「ほんとに、奥さんは今日はばかに元気でしたね。」……その言葉が、私を夢想から引出しました。私は思いきって敵意ある眼付を、木村さんに投げつけてやり、冷淡な眼付を、野口に投げつけてやりました。
夕立雲に木村さんはいささか慴えていました。もう迎いの自動車が来てる時分だというので、分去の茶屋へ引返しました。野口と木村さんとが火山のことを話してる後ろから、私はしつこく黙ってついていきました。やはり雷が恐
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