李は物も食べずに寝ていた。八度ばかり熱があると云った。
 晩になると、正枝はキヨを李の室にやった。解熱剤をあげるから来なさい、というのである。
 李はおとなしく、着物にきかえ、褞袍をひっかけて出て来た。片肱を長火鉢にもたせ煙管で莨を吸ってる正枝の前に、恐縮したようなお辞儀をした。
 正枝はまず解熱剤をのませておいてから、いきなりやりこめた。
「なんですか、昨夜《ゆうべ》のざまは。」
「済みません。昼間雪が降ったから、嬉しくなって……。」
 正枝は眼を瞠った。
「夜はもう解けてましたよ。」
「それでも、昼間降ったでしょう。」
 正枝は微笑しかけたが、それを無理に押しころした。
「そんなに雪が好きなら、犬にでもなりなさい。犬みたいに酔っ払ってさ。」
 云ってしまってから、正枝は自分で困ったように、不機嫌に口を噤んだ。また微笑が浮びそうだったのである。だがその可笑しさは、李には通じないらしかった。
「そうです。でも、おばさんもひどいです。表を開けてくれないから、犬のように外で寝て、すっかり風邪をひきました。八度二分熱が出ました。」
 正枝はまだ黙っていたが、ふいに云い出した。
「外套はどうし
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