たんです。」
李は腑に落ちないような顔をあげた。
「外套を、どうしてあんなところに懸けたんですか。」
李は返事もせず、何か考えてるようだった。正枝はそれに押っ被せて、外套のことを責めたて、春日荘にけちをつけるつもりかとまで云った。
「あゝ分った。」と李は頭を叩いた。「夢をみました。おばさんから閉めだされて、悲しくて悲しくて、泣いてるうちに、死んでしまいたくなり、玄関にぶら下った夢をみました。それだったんでしょう。」
「何がそれです。」
「そういう夢をみたのを、覚えています。その夢が、外套だったんです。」
こんどは正枝の方で分らなくなった。二三度おかしな問答を繰返した後、諦めてしまった。
「なんだかちっとも分りません。熱があるんでしょう。早く行ってお寝みなさい。」
李がしょげ返って出てゆき、一人になると、正枝はまた腹がたってきた。女中にあたりちらした。
だが、話はそれきりになり、外套は結局、正枝の手で泥を払われアイロンまでかけられて、李に渡された。
その時、李はひどく神妙な様子で、今後は酒を節すると誓い、そうした気持の支柱になる事柄を考えついたから、室代の二十二円を、二円だけ
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