居室に戻ってから、十分間ばかりたって、キヨが起き上り、玄関の戸を静かに開けた。戸のすぐ外に、李は地面に尻をつき両膝をかかえて蹲まっていた。蹲まったまま動かなかった。肩を揺られ名を呼ばれて、李はきょとんと顔を挙げた。眠っていたのである。手の甲で眼をこすり、大きな欠伸をし、キヨに援けられて立上り、よろよろとはいりこんでき、靴をけはなし、スリッパもはかずに、夢遊病者のように階段を上っていった。
 その朝のこと、タカが先に玄関に出かかると、帳場の窓の前に天井から、大きなものがぶらりと下っていた。タカは鋭い一声をたてて逃げてきた。キヨが、打震えてるタカと手を取りあい寄りそって、そっと覗きにゆくと、果して、窓の上の鴨居からぶらりと下っていた。足がないし、頭がないし、よく見ると、泥まみれの李の外套だった。それでも気味がわるく、二人は正枝を起しにいった。
 正枝はいきなり玄関の中の電灯をつけた。明るくなってみると、下ってるのはただの汚れた古外套だった。椅子を持って来て取りおろさした。鴨居にあるのは小さな錆び釘で、正月の輪飾りをかけた残りのものだった。
 正枝は腹をたてて、外套を持っていった。
 終日、
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