、と心配そうにきくんです。あたしうるさくなったから、村尾さんはまた戻っていらっしゃる筈だから、きっと引止めて、すぐに電話を下さい、とそう頼んで、ほかへ廻りました。賑かな、ばか騒ぎがすきなかたです。お酌さんを交えて三四人で、騒いでいましたが、やっぱり心が沈みがちで、村尾さんのことが気になって仕方がありませんでした。いくら飲んでも、頭のしんからさめていきます。一時すぎになって、喜久本に電話してみると、村尾さんはいらっしゃらないとのこと。なお気になって、そのままもらって、外に出ましたが、足もとがふらついてるのに、頭のしんがさえて、震えあがるような寒けがしました。そしてどこへ行っていいか分らないような気持になって、いつのまにか泣きだして、家の近くをぼんやり歩いていました。そうしたことにふと気がついて、ばかばかと自分に云いながら、よその家の戸口によりかかって、溜息をついて、なんて自分はばかなんだろう、こんなでどうなるんだろうと、心の中でくり返していますと……向うから、せのひょろりとした男が、黒いマントを引きずるように着て、黒い帽子をかぶって、黒い襟巻で頬をつつんで、薄暗い通りに眼をじっと据えて…
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