なると、へんに気になりだし、泣きたいような心持になって、ついふらふらと、村尾さんに速達の葉書をだしてしまいました。そして安心してると、九時頃、喜久本からかかってきました。村尾さんです。
 あたし、とても淋しいような、また浮々とした気持で、急いでいきますと、村尾さんはどこで飲んできたのか、もうだいぶ酔ってるじゃありませんか。それでいて、きちんと坐って、片手で火鉢のふちをさすりながら、何の話かって、いきなりそうなんでしょう。ただ、お逢いしたかったの、と笑ってみせましたが、あたしもぐいぐい飲んでやりました。何のために速達なんかで呼びだしたのか、自分でも分らなかった上に、村尾さんの痩せた蒼白い頬が、きつく引緊って、冷い眼があたしを見据えてるんです。すり寄って、甘ったれてやりましたけれど、村尾さんは姿勢をくずしません。あたしの指先をいじりながら、君とももう別れなければならないかも知れないけれど、しっかりしていっておくれ、それが僕の頼みだと、いやにまじめなんでしょう。それがどうも調子っぱずれなので、あたしは微笑んで、やたらにいやいやをしてると、ふいに、村尾さんの眼から、涙が流れだしました。ふだんの
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