るのだ。バタだの鰻だの牛肉だの、そんなものを食べさせたいらしい。自分で買ってきてくれたこともある。それから飯をもっと多量に食い、ビタミンの注射もし、何よりも医者にかからねばならないのだ。――然し生憎なことに、バタを除いては、列挙されたものを私はあまり好まない。バタはまだ買い置きがある。卵と海苔しか食べなかったといっても、それは、婆やがそれしか出してくれなかったからだ。婆やが出してくれるものなら、私はたいてい食べている。そして婆やは、私が丁度食べるぐらいのものを出してくれる。飯の分量については、ウイスキーで充分に補いはつく。
 私は微笑しながら、煙草をふかした。
「君が台所をしてくれたら、面白いだろうなあ。食道楽をして、そのために破産する……現代離れがしてるよ。」
「いいえ、現代的というのは、ふだんと病気の時との……。」
 言いかけて彼女はやめた。私があまり微笑しすぎてるのに気付いたのだ。――私の微笑のなかには、彼女に対する蔑視とまではゆかないが、少くとも軽視が含まれているのを、彼女は感づいている。微笑されるよりは寧ろ、怒ったり叫んだりして貰いたいのであろう。
「先生は、いつもはぐらかし
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