無数に生起してくる。――だが、私としては、たとい生き得られなくとも結構だと思うのだ。
それに、私は議論が嫌になり、次に憂鬱に沈んでゆく。飲む速度も早いので、ひどく酔ってくる。尾形の方では酔えば酔うほど饒舌になるのだ。私は彼に饒舌らしておいて、ぐったりと横になった。
「お疲れになったのね。枕をあげましょうか。」と久子が言う。
私が頷くと、酔ってる彼女は、尾形の前も憚らずに、押入を開けた。
「あら。」
彼女は一瞬立ち竦んだ。それから、真赤な箱枕を取り出した。
「なんでしょう、これは。」
彼女は冷淡に言って、箱枕を私のそばに投げだしたのだ。その枕のことを、私は彼女に秘している。言うべきことでもないからだ。――然し、それを瓦礫のように投げ出されると、酔ってる私は、急激な憤怒を咄嗟に感じた。私は起き上って、枕を拾いあげ、袖で拭き清め、それを頭にあてがって寝そべった。そして叫んだ。
「もう帰ってくれ。君たち帰ってくれ。僕は一人でいたいんだ。この大事な箱枕をして、彼女のことを考えていたいんだ。一人きりでいたいんだ。何をぐずぐずしてるんだ。帰れよ。僕はもう一切口を利かないぞ。黙って一人でいたい
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