主張するのだ。
「君の休暇が済んだら、ひとつ取りかかってみようじゃないか。」
 私は曖昧な微笑を浮べる。
「然し、僕の休暇はなかなか済みそうもないよ。」
「だって、病気じゃないんだろう。」
「病気じゃないよ。ただ僕は、政治が如何に愚劣であるかを知った。政治による制度が如何に愚劣であるかを知った。その病気が少しなおらないうちは……。」
「然し君の言うのは、日本の政治のことで、政治そのもののことではないだろう。だがまあ君の意見を聞こう。」
 私はまだ、そのようなことを論議したくないのだ。政治よりも人間だ。人間よりも、自分が今さしかかっており、そして通り過ぎねばならない、寂寥の深淵の孤独圏の[#「孤独圏の」は底本では「狐独圏の」]ことだ。然しそれはまだ誰にも洩らしたくはない。それは立入禁止の聖域なのだ。――私は別な方面から言う。
「先ず、一応、社会が解体してしまって、個人個人がばらばらになり、それから改めて結合するんだな。」
 それが、多岐に亘った議論をひき起した。そんなことをして、現代社会で、人は生き得られるか。よし生き得られたとしても、どんな風に新らしい社会が形成されるか。具体的な問題は
前へ 次へ
全29ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング