って、本心がどこにあるのか分らない印象を与える。体も頑丈で、肉づきが丸っこく固く、短髪に浅黒い顔色、視線にいささかのたじろぎも示さない。そして本来は善良なのだ。正体が知れぬというのは、見たところだけの正体で、他に何もないという意味にもなる。
研究所に出資してくれる杉山さんが、今回の研究結果を大変期待して、更に多額の出資を予約してくれたと、尾形は子供のような喜び方をしている。久子をさして言う。
「このひとは君、なかなか話がうまいよ。杉山さんをすっかり喜ばせてしまった。りっぱな外交官だな。」
「あら、わたくしはただ、ありのままを報告しただけですわ。じっさい、りっぱな成果ではございませんの。」
「そうだ、よく整理すればね。……それから君、僕は新たな研究題目へも取りかかりたいと思ってるんだが、どうだろう。」
第一次世界大戦後から、現在までの、日本の社会情勢とか時代思潮とか人心の帰趨とか、そのようなものから、一転して、政治の欠陥、つまり根本的な責任感の欠除を追求し剔決してみたい。現在、官僚について兎角の批判が為されているが、右の具体的研究によってこそ、官僚組織は根底から転覆される筈だ、と彼は
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