れたのだ。
彼は怪訝な眼付で、私の様子をうかがいながら、調子は快活に言う。
「どうも病気らしいというから、来てみたら、案外元気じゃないか。それとも、酒気違いというやつかね。」
私は寝床も片付けさせていたし、坐り直していた。髯は隔日に剃るのが習慣で、生えてはいない。髪も毎朝きれいにとかしている。
「そうだね、この通りだ。」
久子が横合から言う。
「でも、いつも寝てばかりいらしたじゃないの。病気らしいと、御自分でも仰言ったわ。」
「いろんなことを考えるのが、つまり思索が、僕の病気さ。そして考える時は、寝ころがるのが、僕の癖だよ。」
「そんな病気や癖なら、あたしもしてみたい。」
「誰だってしたいよ。」と尾形は笑った。
婆やが茶をいれてくると、私はすぐにウイスキーの瓶を出さした。何か撮み物の用意も頼んだ。
「なにも肴はないが、久しぶりで飲もう。」
「嘘言え。」
「いや、君と飲むのが久しぶりだ。こいつ、試験ずみで、メチールはないから安心しろよ。」
こうなってくると、尾形はいつものように快活に磊落になる。久子もグラスをなめる。
尾形は正体の知れぬ男だ。元気に饒舌りまくって、そのために却
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