それからちょっと間を置いて、また言った。
「孤独の底に沈んでみたいんだ。」
深い絶望か或は高邁な理念か、どちらに彼が捉えられたかを、私は知らない。いや、そういうものに捉えられたのでも恐らくなかろう。――其後一年ほどして彼は急逝した。
その別所のことが、へんに気にかかってくる。私の孤独圏というのは、別所の所謂孤独とは異質のものかも知れない。精神の周囲と言ってもよし、精神の内部と言ってもよいが、そこの僅かな空間のことで、それは絶対に私一人だけのものであり、決して他人の窺※[#「穴かんむり/兪」、第4水準2−83−17]を許さないものであり、私の独自性の根源なのだ。僅かな空間ではあるが、上下には無限に高く無限に深い。――それに私はいつとなく突き当ったのだ。私が自分を病気ではないかと思うのも、別所のことからの類推かも知れない。
私はまた夢をみた。――満々たる水面に、大きな渦が巻いている。渦は急激で、中心は深い穴となって吸いこんでいる。二筋の藁屑と一枚の木の葉とが、ゆるやかに旋回しながら中心に近寄ってゆき、やがて急に吸いこまれてしまった。あとには何もなく、ただ中心の深い穴だけだ。それが多少
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