いう気持からこそ、のびのびとした力強い気魄は生れてくる。
 この気魄を失わない限り、人は常に自由な晴れやかな真摯な意志の所有者である。
 自分の生を軽視することは、あらゆる不徳の基である。と共にまた、あらゆる萎微沈滞の基である。
 自分の生を愛する気持から来る、自由な真摯な意志は、人に不撓な勇気を与えると共に、無謀笨粗な猪勇を排し去る。そういう意志を以て進む者は、常に輝かしい心と健かな希望とを失わない。そして剛毅な冒険をなすことはあっても、捨鉢な暴挙に己を投げ出すことはない。
 そういう意志にこそ、生活の方向を定むる場合に、人は自分に固執して誤りないものである。その時人は、周囲の事情から然らしむるからではなくて、自分の生が貴いが故に、不可能な方向を選びはしない。最善可能な方向を見出して、あくまでその方へ勇往邁進してゆく。

 自分の生を愛する心を以て、自分の意志で生活の方向を定め、その一筋の途を見つめて進んでゆく時には、たとえ一時的の手段を講じ一時的の迂回をなすことを、外部の事情から余儀なくされることは屡々あろうとも、人は常に健全で力強く輝かしいであろう。
 此の健全な力強い輝かしさこ
前へ 次へ
全11ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング