にとっては、自分の生活はどこまでも自分のものである。ひっくり返して云えば、自分のものだという生活をする者こそ、本当に生きる者である。
 本当に生きるには、生活を本当に自分のものとするには、出発点に於て、云い換えれば生活の方向をきめる時に、自分の意志を以てしなければいけない。
 生活の決定は、自分の意志が多く加わっておればおるほど、それに正比例して、その生活は自分のものとなり、その生を営むものは本当に生きることとなる。

 生活の方向を自分の意志で決定して、而も誤りなきを得るのは、人間として完成した立派な人のみである。大抵の者は危険な誤りをなし易い。
 妥当な批判と架空的な幻との間は、殆ど区劃を許されないほどに近い。妥当な批判をなさんとしてるうちに、人は知らず識らず、架空的な幻に囚われることが多い。自分の才能や性格や境遇などを考察して、自分の生活の方向を定めんとする時に、いつしか架空的な幻を描いて、誤った方向を取る者が、殊に青年に於ては稀でない。
 要は、生活の方向の決定に、なるべく自分の意志を多く加味することにあるので、独断を以て進むことではないけれど、自分の意志をなるべく多く加味する
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