がした。
そしてそれが極度に聖《せい》であった。私は眼を瞑った。
家に着くと、私は堯を抱いたまま芳子の室に通った。赤ん坊の顔に私は一番に眼を落した。
私は全身に震えながら芳子の眼と見合した。芳子の緊張した視線が私の胸を刺した。
「何時に?」と芳子は云った。
「一時四十五分!」と私は答えた。
私は堯を芳子の所へ抱いて行ってやった。芳子は寝ながら、堯を抱き取った。顔の白布を取ってじっとその顔を見た。微笑んだ生きた顔が其処にあった。それから、胸に組み合した小さな両手を見た時、芳子は急に堯を抱せしめた。歯をくいしばって涙をはらはらと流した。
「坊や、坊や!」と芳子は云った。「なぜお母さんが居るうちに死ななかったの! 坊や、坊や!」
私はその側に坐って、芳子の肩を捉えた。そしてその涙にぬれた顔を私の方へ向けさした。私はその眼の中を覗き込んだ。
「堯は僕達の所へ帰って来たんだ!」と私は云った。
芳子は首肯いた。
私は堯をまた抱き取った。
A氏やR叔父などがやって来た。私は皆を次の室へ通さして、間の唐紙をしめた。常に蒲団を敷かした。そして堯を抱いたまま私はその蒲団の中にはいった。赤ん
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