する児となったのである。毎月一回参詣をしなければならなかった。
 私はその小さな草履を見ていると、涙ぐましい感情をそそられた。二階から下りて来てまた蒲団の中にはいった。「今年は本命だから何をしても悪い。ただじっと動かないでいなければならない。」夏に国に帰った時母から云われた言葉が思い出せた。
 目に見えない種々な超自然的な悪いことが私のまわりに立ち罩めた。「俺は凡てを征服してみせる。」と私は自分に云った。然し人が云うように、幾重にも重った私の厄を堯がもし荷っているとしたら……。「自分の力で堯を保護してみせる。堯は自分のものだ!」そう云ったが、私の心は妙に慴えていた。余りに突然な病気だった。「初めからいけないという気がした……」と芳子は云ったのだった。
 重苦しい気分のうちに、私は一時間ばかりうとうとした。眼を開くとじっとして居れなかった。私はすぐに家を飛び出した。室の鴨居に懸っている堯のちゃんちゃん[#「ちゃんちゃん」に傍点]が私の眼の底に残った。
 私は暫く外を歩き廻ってみたかった。然し何時の間にか、私はすぐに病院の前に来てしまった。堯は同じようにじっと寝ていた。
「大丈夫かい。」と
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