一枚一枚数えていった。がいつまでも畳の数がつきなかった。……
「夢を見てるな」という意識が茲で一寸返ってくる。がそのままでぐいぐいと怪しい力で引きずられる。……彼は何時《いつ》の間にか縁側に立って、じっと障子の中を窺っていた。誰も室には居なかった。すると丁度その時、室の中の畳が一枚自然に持ち上って、その下から財布が出て来た。それは先刻の怪しい男の仕業だった。男は身を屈めて財布の中から紙幣を取り出している。……と老婆がじっと屏風の影から隙を狙っていた。「危い!」と思う途端ばさりと音がしてぱっと血が迸った。……その時彼は室の真中にぼんやり立っていた。老婆が傍に斃れている。室の隅の箪笥の上に稲荷様の狐が並んでいる。……妙に何か考え込まれた。そして今すぐに金を返さなければいけなかった。兎に角出かけなければならない。で足を返すと、向うの隅に老婆の顔がげらげらと笑っていた。ふり返ると、其処にまた老婆の顔がげらげらと笑った。……彼はくるくると室の中を廻り初めた。大きい旋風が起ってその禍の中に巻き込まれた。無数の老婆の顔が急速な廻転をなして彼を取巻いた。彼は眼がくらんできて息がつまり気が遠くなった……
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