壮助は苦笑した。そしてつっ立っていた身を其処に屈《かが》めたが、彼はいきなり用件をぶちまけた。
「金を少し貸していただけませんか。」
老婆はしげしげと彼の顔を見守った。彼はそれがたまらなくなって言葉を続けた。
「二十円もあればいいんです。一週間ばかりしたら屹度返しますから。」
「何がそう急にお入用ですか。……あの古谷さんの方ですか。」
「そうです。少し入れておかないと困るですから。」
「なにあれはね、いつもああ云うことを云うんですよ。差押でもすると云うんでしょう。例の手ですよ。……いいから私にお任せなさいよ。私が一寸行っていいように云って来てあげましょう。少し、握らしておけばよござんすよ。私にお任せなさいよ。」
「いや僕はもうすっかり払ってしまうつもりです。友達の方に頼んでいるんです。一週間許りしたら出来そうです。然しいくらかすぐに入れないと困るですから。」
「すっかりお払いなさるんですか。」
老婆はそう云っていぶかしそうに壮助の眼の中を覗き込んだ。
「そうです。」
「まああなたもつまらないことをなさるんですね。」
彼女は其処《そこ》に在った長い煙管を取りあげて煙草を吸った。その
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