あげようと云ったんだよ。そして医者が帰る時一緒に外を歩いて、種々なことを尋ねて来たよ。病気も大変いい方だと医者は云っていたけれど、大変今衰弱してるでしょう。だから早く滋養分を取って元気をつけなければいけないんだよ。今が大切な時なんだからね。」
光子は別に壮助の言葉をきいているようでもなかった。そして彼が云い終るとまた話を初めに戻した。
「誰も私に何にも知らしてくれないのよ。お父さんは何にも仰言《おっしゃ》らないし、お母さんはあの通り何にも分らないんでしょう。それにお医者様はいつもいいいいと云ったきりで帰ってゆかれるのよ。看護婦さんもただ私にお薬や牛乳を飲ませたり種々な話をするきりで、大事なことは何にも云ってくれないんですもの。私ききたいことが、大事なことが沢山あってよ。それに誰も何にも教えてくれないんですもの。」
「それはね、光ちゃんがききたいようなことは誰にだって分るものじゃないんだよ。自分にだってはっきり何がききたいか分らないんでしょう。けれどね、病気がよくなるとみんなはっきり分って来《く》ることなんだよ。だから、ただじっとよくなることばかり考えているといいよ……。私が知ってるこ
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