がいました。それがすぐに呼ばれてやって参《まい》りました。
村中はお祭りのような騒ぎでした。御幣《ごへい》をこしらえるやら、色々な品物を供《そな》えるやらして、いざ御祈祷《ごきとう》となると、村中の人が男も女も子供も集まって来ました。行者はまっ白な着物をつけて、御幣を打ち振り打ち振り、魔法めいた文句を口の中で唱えながら、しかつめらしく御祈祷《ごきとう》を始めました。けれども、石は何としても石です。正覚坊《しょうかくぼう》になりっこはありません。
そのうちに、額《ひたい》から汗を流して一生懸命に祈っていた行者《ぎょうじゃ》は、はたと祈りをやめて言いました。
「皆さん、これは正覚坊が化《ば》けたのではありません。元々《もともと》からの石です」
村の人達はあっけにとられて言葉もありませんでした。やがてその気持ちが静まると、正覚坊に対して腹が立ってきました。この上はぜひとも本物の正覚坊を生捕《いけど》って、仕返《しかえ》しをしてやらなければならない、と口々に言い立てました。正覚坊が化けた石だと誰かがよけいなことを言ったのなんかは、もう忘れられてしまっていました。
けれども、その日はもう
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