夕方になりましたから、翌日|沼狩《ぬまか》りをすることにして、一同は罵《ののし》り立てながら引き上げました。
それらのことを、平助は始終《しじゅう》胸をどきつかせて眺めていました。晩になると、困ったことになったと思案《しあん》にくれました。実はこうこうだと今更《いまさら》言い出したところで、村中の人の気が立ってる折りですから、それこそ、正覚坊ばかりではなく、平助までひどい目に逢わされるに違いありません。こうなった上は、夜のうちに正覚坊を逃がしてやるより外|仕方《しかた》ないのです。
平助は死ぬような思いで、きっと決心をいたしました。酒をたくさん買っておいて、正覚坊が来るのを待っていました。正覚坊は平気な顔をして、いつもの通りやって来ました。
二人は酒を飲み始めました。しかし平助は気がめいりこんでしまいました。終《つい》には涙をぼろぼろ流して、正覚坊の頭を撫《な》でながら、よく訳を言ってきかせました。
「そういう訳だから、もうお前とは別れなければならない。名残惜《なごりお》しいけれど仕方《しかた》がない。沖に出たら、暴風雨《あらし》やなんかに気をつけて、身体《からだ》を大事にするが
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