岸辺《きしべ》の真菰《まこも》の中に隠れました。
翌日になると、村の漁夫達《りょうしたち》は朝早く集まって、沼へ大きな網を入れました。大変重たいものがかかりました。そら正覚坊がかかったと言って、総掛《そうがか》りで、引き上げてみますと、大きな石ではありませんか。皆はがっかりしました。平助一人が心で喜びました。
ところが漁夫達の中に一人の物識《ものし》りがいまして、そういう沼に住むくらいの正覚坊だから、きっと石に化《ば》けたのに違いない、と言い出しました。人々もなるほどと考えました。
そこで、その石を正覚坊になすのが問題となりました。酒をぶっかけたらいいかも知れない、と一人の男が言い出しました。早速《さっそく》酒を取り寄せて、石にぶっかけてみました。けれども、元々《もともと》からの石ですから、酒をかけたくらいで正覚坊になりようわけはありません。
「なかなかしぶとい奴《やつ》[#ルビの「やつ」は底本では「ゆつ」]だ」とも一人の男が言いました。「この上は行者《ぎょうじゃ》に祈ってもらおう」
一同はそれに賛成しました。幸いとその村の近くの町に、狐《きつね》つきを落としたりなんかする行者
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