ぐるのも忘れて、岸で昼寝をすることがいくどもありました。それを村の人達に見られたのです。
 沼のほとりで大きな正覚坊が眠ってるのを見たと、一人の者が言い出しました。すると、俺《おれ》も見た俺も見たと、いくにんも見た人が出て来ました。それならばひとつ生捕《いけど》りにしてやろう、ということになりました。縁起《えんぎ》がいい奴《やつ》だから村中で池の中に飼ってやろう、という相談がまとまりました。
 それを聞いて、平助は心配しました。池の中に飼われると、一緒に酒を飲むことも出来なくなるわけです。その上、平助は若い時|荒海《あらうみ》の上を乗り廻したことがあるだけに、正覚坊がもし狭苦しい池の中に飼われたら、さぞつらい思いをするだろうと考えました。どうしても正覚坊《しょうかくぼう》を村の人に生捕らせてはいけません、しかし、どうもうまい方法が見当りませんでした。
 そうこうするうちに、いよいよ明日は村中で沼に網を入れるという、その前夜になりました。平助は仕方《しかた》なしに、村の人達をだましてやろうと考えました。そして、正覚坊へはよく言ってきかして、その晩二人で大きな石を沼の中に沈め、正覚坊は沼の
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