んらい》正覚坊《しょうかくぼう》とあだなされてるくらいの平助と、本物の正覚坊とが一緒になったものですから、いくら酒があってもすぐになくなってしまいます。平助は無欲ですから、お金をためようなどとは思いませんでしたけれど、正覚坊と二人で充分に酒を飲めないのが残念でした。ことに漁《りょう》が少ない時なんかは、少しばかりの酒を前にして、しおれ返ってしまいました。
 平助が困ったように考え込んでるのを見て、ある晩、正覚坊は何と思ってか、そこにあった投網《とあみ》をしきりに引っ張ります。それを見て平助は、これは投網を打ちに行けというんだなと悟《さと》りました。
 平助は正覚坊を連れて、投網で夜漁《やりょう》に出かけました。すると何しろ正覚坊が魚を追い廻して来てくれますので、そこの所へ投網を打つと、はいることはいること、またたくまに持ちきれないほど取れました。
 そういうふうにして、平助と正覚坊とは、充分に酒を飲むことが出来ました。一晩漁に行けば、二三日分の酒代《さかだい》はわけなく稼《かせ》げるのでした。
 けれども、あまり酒を飲んだのがいけなかったのです。翌朝まで正覚坊は酔っぱらって、沼の底へも
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