るぞ」と平助は言ってきかせました。「深い広い沼だから安心だ。海に出るとまた暴風雨《あらし》にあうから、おとなしく沼の中に住んでいろよ。そして時々遊びに来いよ。酒を用意しておいてやるぞ」
正覚坊はその言葉がわかったかのように、頭をこくりこくりやってみせました。
平助は人に見つからないようにして、正覚坊をつれて沼へやって来ました。正覚坊は一つお辞儀《じぎ》みたいなことをして、沼の底へ沈んでゆきました。
平助はうれしくってたまらないような気がしてきました。元気いっぱいで漁に出ました。大層《たいそう》よく魚が取れました。晩になると、魚を売ったお金で酒を求めて、正覚坊が来るかも知れないと待ってみました。
晩遅くなってから、戸をことりことりと叩くものがあります。平助は半信半疑《はんしんはんぎ》で戸を開いてやりますと、正覚坊がちゃんと来ているではありませんか。平助の喜び方ったらありませんでした。夜ふけるまで二人で酒を飲んで、それから一緒に寝ました。朝になると、正覚坊は沼へ帰ってゆきました。
それからは、毎晩平助の家へ正覚坊が遊びに来ました。二人で楽しく酒を飲みました。
ところが、元来《が
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